赤飯とお父さん

 


「ご飯よー降りてらっしゃいー。ツカサ、カナ、降りてらっしゃいー!」母の何故か二回繰り返した「降りてらっしゃいー」に違和感を覚えながらリビングに向かうといつもより明らかに豪勢なご飯が並んでいて、母とメルはもうすっかり打ち解けている様子だった。「メルちゃんとっても可愛いし、お料理も上手いし、いい奥さんになれるわね。」「流石お母さん!デリカシーないね。」皮肉を込めて言ったつもりだった。「その時は、ツカサさんもらってくださいねっ!」この子もこの子でどこまでが本気で言っているのか解らない。


 僕は赤飯を頬張りながら、考え事をしていた。
 6年前、僕の父はテレポートマシンの組み立てという地球規模でのプロジェクトに参加していた。物知りで優しい父は僕のじまん自慢だった。そんな中、現場の状態もろくに知らない各国のお偉いさんが組み立てを更に急ぐようにと催促してきた。優し過ぎてしまった父は他の人が残業を断る中、毎日遅くまで頑張っていた。そんなことが半年続き父は過労死した。
 別に異星人が悪いわけではないのは解っていたが、ぶつけどこのないこの気持ちが、彼女に対する偏見を増大させていた。


 「ご馳走様。」僕は食器を片付けさっさと部屋に戻った。下では賑やかな声がする。布団がいつもより暖かく感じた。


電気女と鬱念(うつねん)男


 1時間がたち、東京駅に着いた僕は、人混みをかき分け噴水公園を目指した。家にホームステイする人は既について待っているのだろうとは思いつつも、僕は予定通りに着くように歩いて行った。


 手を噴水に向かって伸ばす僕と同じくらいの女の子がそこにはいた。「すみません。星野ですが、メルさんですか?」ゆっくり丁寧を心がけて話した。「はいそうです!星野 ツカサさんですよね?不束者ではありますが、どうか宜しくお願い致します。」予想もしていなかった返答に僕は唖然としてしまった。ぼーっとしている間に「大丈夫ですか?」と言われ、ふと我に返った。彼女の顔がかなり近くに来ていて不覚にもドキッとしてしまった。顔に出さないように我慢しながら「ではいきますか。」と言った。「えっ、あ、はい!」彼女に悟られただろうか。


 電車の中では彼女は懸命に会話を繋ごうとしてくれたが大した会話もないままに、家に着いてしまった。


電子レンジと宇宙人


1998年
オーストラリアで11光年先の星からメッセージが届いた。


2015年
解読に成功した。
内容は身体の大半を電気が占める、形は人間によく似た生物らしいものだった。


そして…
2×××年
通信技術の進歩により光を超えるスピードでの通信が可能になった。
その宇宙人からテレポートマシンの設計図が届き、人類は総力を結集し、組み立てた。
これが宇宙人、通称ロス・バルゴ(ROOS・VIRGO)との出会いだった…


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 「今朝ロス・バルゴの移民が可能となり、多くの人でここ旧東京駅前はごった返しています。」耳障りなほどデカいテレビの音で僕は目を覚ました。とても天気はいいが、酷い目覚めだった。
 「姉ちゃんうるさいよ…」リビングに向かいながらぼやいた。
 「だって、うちにホームステイしに来るんだよ!!」その満面の笑みには欠点などある訳はなかった。口についた納豆以外は。
 僕はかきこむ様にご飯を食べ、いつもより念入りに歯を磨いてみる。
 そして「行ってくるね」と言い残し東京へ出迎えに行った。鼻水をすすりながら空を見ると、腹立たしいほどに青い。その真ん中を貫く一本の雲だけが味方のような気がした。